助けて貰うことが、当たり前になっちまってんのかもなァ、と、今更思う。
思ったところで、助けて貰わなければ死んでしまうので、仕方ないのだけれど。
ゾロが熱を出した。
理由はチョッパーが色々話していたが、難しくっておれにはよく分からねェ。
ただ分かるのは、ゾロがものすげェしんどそうだ、ってことと、その原因が海に飛び込んだせいらしい、ってことと、更にその原因がおれにある、ということだけ。
気にかける理由なんて、それぐらいで十分だろう。
……いや、実は全然、まったく、心配なんてしてねェんだけども。
「ルフィ、サンジのところへ行って、氷貰ってきてくれないか」
だって、ナミん時とは違って、うちには優秀な船医がいるし。
元々ゾロってばすんげェ丈夫だし、チョッパーに任せてりゃあ大丈夫に決まってるじゃんか。
だから心配してる、ってわけじゃあ、ねェんだけど。
「……ルフィ?」
「ん、んん?? なんだチョッパー?」
「ゾロのこと、心配か? 大丈夫だぞ。すぐに良くなるよ」
「んにゃ…うん。そうだよな、ゾロだもんなァ」
何故だかおれの方がチョッパーに心配されてしまった。
いや、だから、全然心配なんてしてねェんだぞ、ホントに。
そんでもやっぱり、おれのせいで仲間が辛い目にあうっていうのは、気持ちのいいもんじゃねェし。
申し訳ないというかだな。……うん、だから、何も出来ねェけど、離れられなくって。
だからっておれがついてたって、ゾロにとっちゃ何の足しにもならねェよなァって。
なんというか、せんちめーとる?? な気分なわけだ、おれは。
「だから、氷取ってきてくんねェかな」
「おう。よしきた。任せろ」
動いていた方がまだ、気が紛れるかもしれない。
チョッパーが与えてくれた仕事、ゾロのためになるなら尚更、すぐに果たしてやろうと。
立ちあがったら、止められた。……布団の中から伸びてきたゾロの手に。
めちゃくちゃ熱いし、傍目にもしんどそうなくせして、いつもと全く変わらない力で。
握りこまれた腕、思わず振り向いたら、一瞬だけ合った視線。
ゾロは何にも言わずに、すぐに手を離してそっぽを向いたけど。
「……わりィ、チョッパー。やっぱおれ行けねェや」
「う…うん。じゃあ、おれが行ってくる。ゾロのこと、見ててやってくれ」
「おう」
ただならぬ空気を感じ取ったのだろう、逃げるようにぱたぱた部屋を出てゆくチョッパーを見送って。
ベッドの傍、さっきまでチョッパーが座っていた椅子に腰かけて、こっちを見ようとしないゾロのマリモ頭を眺めながら、小さく溜め息を吐く。
なんで、あんな、すがりつく、みたいな、情けねェ顔するんだ、お前は。
チョッパーのやつ、すんげェびびってたぞ、らしくなさすぎて。
ありゃ暫く帰ってこねェな、うん。
「ゾロ。大丈夫か?」
「大丈夫じゃねェ……」
「だよなァ、恥ずかしいよなー」
「……だまれ、頼むから」
そっぽ向いてたって、ゾロ、耳まで真っ赤だ。
チョッパーがいること、お前、あの一瞬、忘れてたんだろ。バカだなー。
「な、もうチョッパーいねェし、こっち向けよ」
「楽しんでんだろ、てめェ…」
「しししし!」
そりゃあ珍しいもん見れたから、嬉しいし楽しい。
それでも顔を見たい、理由は、からかいたいから、なんかじゃなくって。
「ぞーろー」
「……んだよ」
ようやくこっちを向いた顔は、やっぱり赤くって。
汗もすげェし、息も苦しそうだし、ちょっと涙目だし。
ケガでぼろぼろなのは見慣れてるし、今更どうとも思わねェけど、こういうのは、見慣れない分、やっぱり辛いというか、なんというか。
いや、辛ェのはゾロなんだけど、…わかってるけど。
「……バァカ。そんな顔、すんな」
やっぱりおれの方が心配されてしまった。ゾロにまで。
おれ、そんなに情けねェ顔、してんのかな? さっきのゾロと同じぐらい?
そりゃだめだ。だめだめだ。ゾロのこと笑ってる場合じゃねェ。
「ゾロはさァ、いっつも、すぐ、おれんこと助けてくれるだろ?」
「ハ、気にしてんのか?」
「いや、してねェ」
「……しろよ、ちっとは」
や、ゾロの言い分はもっともだけど。
海に落ちた時、ひっぱりあげてもらうことに関しては、手間かけて悪いとか、そういう風に思ったことはない。
そりゃ、感謝はするけど。自分じゃどうしようもないんだから、助けてもらわなきゃ、しょうがねェもん。
でもゾロがこうやって、おれを助けたせいで、熱出して。
よくよく考えてみたら、おれはゾロが助けてくれるからって、気を抜きすぎてるように思えて。
何故だかゾロは、おれが海に落っこちたら、たとえ寝てたってすぐに気付いて引きあげてくれるので。
…海に落っこちるの、ぜんぜん、怖くねェじゃんかって。
あがけばどうにかなりそうな時も、あえて落ちてしまっている、ような気がしたんだ。
もちろん、意識してそうしてるわけじゃねェけど。
――でもそれって、無意識だからこそ、余計に危なくねェ?
だって、もしも誰にも気付かれなかったら、おれ、100%死んじまうのに。
ゾロがいるからって、たったそれだけで、そんな危ねェこと、忘れちまったら。
と、いうようなことを、途切れ途切れ話してみたらば。
「だからおれは、もう何べんも、お前が沈むまで放っといてやろうかと思ったぜ」
フン、と鼻で笑われてしまった。
「……気付いてたのか、お前」
「そりゃあなァ。反射神経が鈍いわけでなし、おまけにゴムだってのに、そんなにぽんぽん落ちるわけねェだろうが」
「だよな~…おれどうしよう。ゾロがいなきゃ死ぬかもしんねェ」
「……悪くねェが。ありえねェ」
「なんで?」
「お前、誰かが気付く状況じゃなきゃ絶対落ちねェだろ」
「…へ? そうなのか?」
それこそ全く、そんなこと意識してねェんだけども。
落ちる時はどうしたって落ちちまうし。
……うん、でも、確かに、そうじゃなきゃとっくに死んでるか、おれ。
きっとものすごく運がいいんだな。おれは。
「だから、助ける方は余計腹立つんだけどなァ、船長」
「……スミマセン。アリガトウゴザイマシタ」
「どういたしまして」
とろり、とゾロが目を伏せる。
普通に喋ってるから元気んなったのかと思ったけど、やっぱしんどいんだな。
これは船長としてはしっかり休ませてやらねばなるまい。
「寝ろよ、ゾロ」
「…そうする」
素直に言うことを聞くゾロが、なんだか子供じみてかわいいので、なでなで、頭を撫でてやる。
ナミの時よりは大分マシだけど、やっぱり熱い。ものすごく。
よくこんなんで普通に話とか出来るよなァ、こいつ。
おれなら絶対無理だ。寝込みっぱなしだ。
そんでもって、ゾロだのサンジだのに、これでもかと甘えまくる。
……そんじゃゾロも今、言わねェだけで、もしかしたら甘えてェのかな?
「なァなァ、なんかしてやろうか、ゾロ」
「いらねェ」
体を揺さぶりながら訊いてみたら、迷惑そうに一蹴された。
まったく、人がせっかく甘やかしてやろうと思ったのに。
しかし何もしていらねェなら、おれがここに座ってる意味ねェじゃんか。
なんとなくつまらなくってぶーたれていたら、うっすら目を開けたゾロが、のそりとこちらへ手を伸ばしてきた。
「何?」
「手、貸せ」
「手??」
「つないどけ」
言われるがまま、差し出された手をぎゅっと握ってみる。
ビョーキの時は人恋しくなるもんだ、って、言ってたの、サンジだっけなァ。
「甘えんぼか、ゾロ」
「……不安で」
「ふ、不安!?」
「今海に落ちられたら助けてやれねェんで」
「そっちかよ!」
もんのすごい珍しい台詞を聞いたと思ったら、おれの心配らしい。
この状況で、こう何度もおれの方が心配されるって、おかしいだろ、絶対。
おれってそんなに信用されてねェのか。それはちょっと、さすがにヘコむぞ、おれでも。
それにゾロ、さっき、助けて貰えない時はおれ、海には落ちねェって言ってたじゃんか。
ゾロがこんな状態なのに、うっかり落っこちたりしねェってば。
なんてぐるぐる考え込んでいたら、冗談だ、とゾロに笑われた。
……冗談? なにが?
「いいから、傍にいろ」
「…おォ。分かった」
じっとしてんの、あんまり得意じゃねェんだけど。
そんでも、理由はどうあれ、それでゾロが安心するなら、治るまでは傍にいてやろう。
おれを引きとめた時のゾロの顔、すんげェ寂しそうだったしな。
今度こそあっという間に寝入ってしまったゾロの横顔を眺めながら、もう一度ぼんやり考えてみる。
ゾロがいるからって、簡単に海に落ちてしまえる癖、どうしたら直るんだろうか、と。
一番手っ取り早い答えなら分かってる。ゾロがいないと思えばいいんだ。
でも、……でもさァ、それは難しすぎて、おれには無理なんだよなァ。
助けてもらうことが当たり前、になる、ずっと前から。
ゾロが傍にいることが、おれにとっては、当たり前なので。
……オマケに、助けて貰える時しか海に落っこちねェなら、直す必要なくねェか?
つーか、そもそもおれ、なんでこんな難しいこと考えてんだ??
ゾロが熱なんて出すからだ。いやでも、その熱の原因はおれで、あれ?
だめだ、こんがらがってきた。…ゾロが元気になってから、一緒に考えればいいか。
よし。おれも寝よう。
―――――――
色々つめすぎて収集がつかなくなったなど。そして寝オチである。
自分が久々に熱を出しまして、ネタにしたくなりまして。
ルフィさんが風邪ひく方は前に書いたので今度はゾロにしようかなと。
ゾロがルフィさんの腕掴むところを書きたかっただけです。実は。
体調悪い時ぐらいルフィさんにべったり甘えてもいいと思います。
しかしそれだけだと何なので、前から書きたかった、あえて海に落っこちるルフィさんを絡めてみたらやはり収集がつかなくなっ……そのうち再挑戦するかもしれません。ぐすん。
みなさんも風邪にはお気をつけて!
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*アンケ協力してやるか。